- 地域文化ナビ
2014年12月24日
- [中部]
大人の遊び 峠の国盗り綱引き合戦
2014年10月26日日曜日、長野県飯田市と静岡県浜松市の境界で
熱戦が繰り広げられる「峠の国盗り綱引き合戦」を観戦しました。
「峠の国盗り綱引き合戦」活動紹介
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_cca/detail/2014c2.html
会場は、長野県と静岡県の県境にある峠。
朝10時に決戦の火蓋が切られるため、前日から出かけました。
大阪から新幹線で名古屋に、
名古屋から中央道高速バスで約2時間で飯田市に到着。
ここからは、飯田市職員の友人の車で、
飯田市側の本営、南信濃・遠山郷に。
遠山郷は、あの山の向こうです。
色づき始めた山々を眺めながら、飯田市中心部から約1時間、
あのトンネルを越えると遠山郷です。
(ここまでで、大阪からかれこれ4時間以上かかっています。)
遠山郷のお宿に入る前に、少し寄り道をしました。
廃校になった旧木沢小学校を、
地域の人たちが大切に保存し、活用しているのです。
この小学校の校長先生は、ネコ!
人気者のネコ校長、タカネ君。
お昼寝中をお邪魔してパチリ。
小学校に残っていた絵や楽器、教科書など、
様々なものが活用されています。
こんな張り紙も見つけました。
ここを管理・運営している地元のおじさんたちに、
コーヒーとお茶菓子をご馳走になりました。
交流されている奄美の方たちからの頂きものだという黒糖焼酎を、
あっ!と言う間もなく、コーヒーの中にドボドボドボーッ。
が、これが、実にイケたのです。
黒糖焼酎はラム酒みたいなものだから、コーヒーとも合うのですね。
おじさんたちは、そんなことはお構いなさそうでしたが。
その夜は遠山郷の民宿で一泊し、
翌朝、まずはシャトルバス乗り場に。
綱引き合戦の会場までは細い山道しかなく、
おまけに駐車スペースもないために、
人々がマイカーで集まると渋滞するうえにとても危険。
この日は一般車両を通行止めにして、
浜松側と飯田側から、シャトルバスを出しているのです。
飯田側のシャトルバス乗り場は、
天然温泉施設でもある「かぐらの湯」。
ここのお湯は、塩分が高く、とってもしょっぱい。
ですから温泉を利用して、なんとこの山の中で、
河豚の養殖にも取り組んでいます。
シャトルバスで山道を行くこと40分。
やっと会場に到着です。
綱引き合戦が始まったのは、1987年。
峠を隔てて隣接する浜松市の最北端「旧水窪(みさくぼ)町」と
長野県の最南端「旧南信濃村」の青年たちが、
同じ山間部の住民同士、交流と親睦を深めようと始めたものでした。
会場のヒョー越峠(海抜1165m)は、かつて武田信玄が、
遠州攻めのために越えた峠と言われています。
そこで、戦国の昔にならい、
勝ったほうが境界を相手側に1メートル広げることができる、
というユニークなルールが生れました。
2013年までは、信州軍(飯田側)の15勝対遠州軍(浜松側)の12勝。
境界は3メートル、浜松側に移動しています。
右端の白い標識は、実際の県境を示すものです。
信州軍の合言葉は「信州に海を!」、
遠州軍の合言葉は「遠州に諏訪湖を!」。
両方とも、6万連勝以上しないと実現しない夢だそうです。
会場には、婦人会の人たちが作ったきのこ汁のコーナーや、
2014年度のサントリー地域文化賞受賞を紹介するコーナーもありました。
午前10時、いよいよイベントの開始です。
まず、遠州軍(左)、信州軍(右)の総大将である
市長が口上を述べます。
コスプレ姿で。
お互いに
「敵の大将の首を取って、浜松城にさらすぞー!」
「負けたら切腹じゃー!」
などと、議会などでは口走れないであろう過激な応援、
叱咤激励の言葉が飛び出し、会場も湧きます。
観客席は山の斜面です。
続いて、両軍の総大将や役員による親睦綱引き、一般成人の綱引き、
子どもたちによる綱引きが行われました。
さて、いよいよ本番です。
両軍の意地と面子をかけて、それぞれの商工会青年部の精鋭が登場。
3連敗中の遠州軍は、全員、必勝の鉢巻をきりりとしめ、
気迫が漲っています。
彼らはともに、この日のために(?)、
スポーツ綱引きにも励み、日々、鍛錬を重ねてきました。
行事(写真中央)は、豊橋市副市長が務めます。
1本2分間で、先に2勝したほうが勝ち。
1勝1敗で勝負が進み、3本目は時間無制限です。
じりじりと引きつ引かれつ。
かかった時間はおそらく3分程度だったと思うのですが、
見ているこっちも力がこもり、とても長い時間に感じました。
そして、3連敗の無念を晴らし、見事、遠州軍の勝利!
両軍の総大将の手によって国境の移動が行われます。
負けると、跪いて杭を支えていないといけないので、
市長さんにとってはこれがとても屈辱なのだそうです。
応援にも熱が入ろうというものです。
でも、この綱引き合戦、これまで28年の間、
4連勝以上の記録はないそうです。
毎年、開催前に両軍の間で行われるルール交渉。
負けている側が提案してくるルール変更を、
勝ち越している側が受け入れることでまとまるそうです。
綱引きの勝負では本気でぶつかるけれど、
お隣同士、相手にひどく辛い思いはさせないような
大人の配慮が感じられます。
「信州に海を!」「遠州に諏訪湖を!」という合言葉は、
それぐらい長い間、お互いに交流していこうという
気持ちの表れなのでしょう。
「峠の国盗り綱引き合戦」は、ユーモアいっぱいで、
熱くて、優しい、大人の遊びなのでした。
さて合戦の後、同じ町のサントリー地域文化賞受賞者同士ということで、
わざわざ応援に来ていらっしゃった浜松交響楽団の皆さんとご一緒に、
遠山郷のジビエ料理専門店で地元の味を堪能してから、
私は5時間あまりの家路についたのでした。