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2019年06月04日

プレミアムミニトーク(大阪)第1回「ことばの力」を開催

サントリー文化財団設立40周年記念事業のひとつである、トークイベント「プレミアム・ミニトーク」を518日、大阪・梅田蔦屋書店にて開催しました。

「プレミアム・ミニトーク」は、サントリー学芸賞の受賞者など、第一線の研究者が専門を越えて対話し、その楽しさを読者の方にも共有してもらえる場を提供したいと、書店と協力して開催します。

 東京での第1回には、福岡伸一先生と三浦篤先生をお招きし、「生物と芸術のあいだ――芸術は無生物か」をテーマにお話いただきました。(リンク先より、当日の様子を紹介した記事と、トーク全編の動画をご覧いただけます。)

 初の大阪開催となる今回は、柴田元幸先生(東京大学名誉教授・翻訳家)と互盛央先生(編集者)をお招きし、「ことばの力」について語っていただきました。

今回のメインテーマとなったのが、アメリカの作家、スティーヴン・ミルハウザーが書いた「カスパー・ハウザーは語る」という短編です。この物語は『ナイフ投げ師』という本に収録された一篇で、柴田先生が翻訳されています。

 「カスパー・ハウザー」とは、1828年のドイツに忽然と現れた少年の名前です。ニュルンベルクの広場で保護されるまで15年以上地下牢に監禁されていたとみられ、言葉も満足に操ることができなかったいわゆる「野生児」です。暗闇でも物が見えたり、目で見なくても金属を探知することができたりと不思議な能力を持っていたとされます。当時のドイツでは、この少年を一目見ようと、大勢の人が詰め掛けました。しかし、カスパーは保護された5年後の1833年に何者かによって殺されてしまいます。

謎に満ちた「カスパー・ハウザー」という存在は、その死後も人々の興味を惹きつけ、柴田先生の学芸賞受賞作『アメリカン・ナルシス ―― メルヴィルからミルハウザーまで』で論じられたハーマン・メルヴィルをはじめとした数々の作家の作品にもその名が登場します。また、互先生の受賞作『言語起源論の系譜』でも、重要な存在として扱われています。

「カスパー・ハウザーは語る」は、「カスパーが1833年の暗殺を逃れて生き延びた」という設定で、ニュルンベルクの市民の前で自らの体験を語るという内容で、言葉を身につけたカスパーが人々に語りかける内容で構成されています。


少し妖しげな内容の物語を魅力的に語る柴田先生の朗読に、会場にお越しの皆さんはじっと聞き入っていました。

また、カスパー・ハウザーの何が人々をひきつけたのか、そしてヨーロッパにおける「言語」が持つ意味についても互先生による解説がありました。


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「言語起源論」、つまり最初の言語はどのようにして生まれたのか?という問いはヨーロッパにしか存在しない。ヨーロッパとそれを中心とするキリスト教圏では「起源の言語=人類最初の言語」とは、旧約聖書の創世記にでてくるアダムがしゃべっていた言語を指す。ヨーロッパには色々な言語があるが、皆自分たちの言語がアダムの言葉とどの程度近い言語なのかを知りたがったし、自らの言語がアダム直系であるということを証明して、権力の正当性の根拠としたいと願う王が多くいた。

例えば13世紀のローマ皇帝や、15世紀のスコットランド王たちは、「社会から隔離して育てた子供がしゃべり始める言語は、『起源の言語』である。」と考え、赤子を社会・言語から隔離して育てさせた。スコットランドの例では、「子供たちはヘブライ語を話した」と記録されている。このようなことがヨーロッパでは大真面目に議論されていた。

そのような中、19世紀になって「カスパー・ハウザー」という存在が現れた。長い期間監禁され、言葉を話すことができないカスパーに、世間の人々は「純粋な人間の姿」を見出したのでは。

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一度に物語をすべて朗読するのではなく、合間に本の内容を補うようなトークを盛り込みながら、イベントは進行しました。お二人の会話は本に付けられた「註釈」のように、聞き手に物語の世界を鮮明に感じさせ、まさに「ことばの力」を実感する時間となりました。柴田先生の朗読と互先生による解説の両方が楽しめる、まさに「プレミアム」なイベントとなりました!

次回は、715日(月・祝)に大阪の梅田蔦屋書店にて開催します。自然と昆虫への愛を語った『楽しき熱帯』で学芸賞をご受賞されたファーブル昆虫館の館長・奥本大三郎さん(フランス文学者)と、『水族館の文化史』で昨年学芸賞を受賞された関西大学教授・溝井裕一さん(ドイツ文学者)のお二人にお越しいただきます。

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投稿者(柴)

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