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2019年07月25日

プレミアム・ミニトーク(大阪)第2回「都会のなかの龍宮城──水族館のはなし」を開催

サントリー文化財団設立40周年記念トークイベント「プレミアム・ミニトーク」を715日(月・祝)、海の日に大阪・梅田蔦屋書店にて開催しました。

このイベントは、サントリー学芸賞受賞者など、第一線の研究者が専門を越えて対話し、その楽しさを読者の方にも共有していただける場を提供したいと、書店と協力して開催しています。

大阪第2回目となるこの日は、奥本大三郎先生(埼玉大学名誉教授)と、溝井裕一先生(関西大学教授)にお越しいただきました。

世界中の水族館や動物園について研究されている溝井先生(左)は、昨年『水族館の文化史』で、サントリー学芸賞(社会・風俗部門)をご受賞。今回のイベントでは、ファーブルの『昆虫記』の翻訳で知られ、生き物が大好きな奥本大三郎先生を聞き手に、溝井先生に古今東西の水族館について語っていただきました。

水族と人間の関わりの歴史は古く、多くの古代文明では、人工の池に観賞用・食用の魚を飼う「養魚池」と呼ばれる施設が存在しました。古いものではエジプトの墓から、魚が池を泳ぐ姿を描いた壁画が発見されています。

また、南フランスのアヴィニョンにある教皇庁には、魚や水鳥が泳ぐ養魚池が描かれた14
世紀の壁画が残されています。

この地はファーブルのゆかりの都市でもあり、奥本先生は、フランスを訪れる際に何度もその壁画をご覧になっていたそうで、思い入れのある絵だそうです。

会場では、溝井先生のサントリー学芸賞受賞作『水族館の文化史』も販売しました。

ガラスの水槽に魚を入れて鑑賞する水族館が作られたのは19
世紀に入ってからのこと。1853年、イギリスのロンドン動物園に併設された施設では、四角い水槽をいくつも並べ、その中で魚を展示しました。これが世界初の水族館といわれています。

また、19世紀の西洋では「グロッタ式」と呼ばれる洞窟の形をした水族館が流行します。岩の間から魚を覗く気分が味わえるように、水槽が岩で覆われ、人々はその隙間から海の世界を垣間見ることが出来ました。

この、19世紀という時代と生物について、溝井先生は「『海底二万里』では、とても丁寧に海洋生物の描写がされている。この小説が発表されたのは1870年で、ファーブルが『昆虫記』を執筆していた時期と近い。『地球のあらゆる場所を見てみたい』という人々の思いが強くなった時代だったのでは。」と語ります。

一方の日本では、1882年(明治15年)に西洋に倣った国内初の水族館がつくられました。これは世界的に見ても相当早い時期です。
日本最初の水族館は、上野公園内につくられたもの(葛西臨海水族園HP)で、その外観は西洋で流行した洞窟型の水族館にそっくり!この日本初の水族館は1989年に移転し、葛西臨海水族園(江戸川区)として現在でも続いています。

トークでは、現在の水族館についても教えていただきました。近年の水族館では、最新の技術が取り入れられ、広い空間を使ったダイナミックな展示が行われるようになった反面、似通った雰囲気の水族館が世界中に増えているのが残念だという溝井先生。

そのような中でも、オリジナリティのある展示をしていると先生が注目しているのが、「いおワールドかごしま水族館」。他の水族館ではあまり見られないサツマハオリムシなど、鹿児島近海特有の生き物を展示しており、その土地ならではの空間を作り上げています。
また、イルカのデモンストレーションでは、導入にあたり「過度のイルカの擬人化」を避けることが真剣に検討されるなど、生き物を展示することについて、真摯に向き合う様子が紹介されました。

その他にも、「ディズニーランドの登場が、水族館に与えた影響は大きい」という話は、まさに目からウロコ!デジタル技術によって、画面の中に海を再現するアトラクションを溝井先生が紹介すると、「今の子供は映像を見ても驚かないんじゃない?昆虫は実際に触らせてあげると喜ぶよ」と、奥本先生。デジタル技術が発展すればするほど、実物と触れ合う機会は貴重なものになるのかもしれません。

話題は水族館に留まらず、溝井先生の話を聞いた奥本先生からは「乙姫様と弁天様の関係」や「魚の調理方法」にいたるまで、海にまつわる様々な質問が飛び出しました。

また、溝井先生のトークの後には、奥本先生がジャングルで撮影された貴重な写真を見ながら、そこで生きる生き物と人の関わりについてお話いただきました。

来場された方々は、普段見る機会のない世界中の水族館や生き物、ジャングルでの生活の様子を真剣に見つめていました。「珍しい写真が見られてよかった。イラストつきでメモをとりました!」とおっしゃっている方も。

 そしてトーク終了後には、奥本先生と溝井先生は海遊館(大阪市港区)へ。実は奥本先生、海遊館に行くのはこの日が初めてだったそうです。

大きな水槽でゆっくりと泳ぐ魚を見ていると、いつの間にか時間が過ぎてしまう、まさに「龍宮城」のような空間です。


動物愛護や環境保護などの観点から、時に批判も受ける水族館ですが、同時に人と生き物の関わりについて考える絶好の空間でもあります。時代と共に変化してきた水族館が、これからどのように進化していくのか、楽しくも難しい問題だと感じました。

溝井先生のサントリー学芸賞受賞作『水族館の文化史』特集ページ(勉誠出版HP)では、ご著書の内容が詳しく紹介されています。貴重な図版も一部紹介されていますので、ぜひご覧ください。

 次回のプレミアム・ミニトークは 9/14(土)、梅田蔦屋書店にて鹿島茂先生、原武史先生に「関西の私鉄文化」をテーマに語っていただきます。

9/30(月)には、「アカデミズム」と「ジャーナリズム」についての武田徹先生、渡部一史先生の対談を予定しています。

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投稿者(柴)

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