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2021年01月20日

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第42回「サントリー地域文化賞」の選評を掲載しました!




サントリー文化財団は第42回「サントリー地域文化賞」を5団体に、特別賞を1団体に贈呈することになりました。

◆受賞者一覧
岩手県 三陸国際芸術祭

三陸の郷土芸能団体と、アジア各地のアーティストが交流する芸術祭

新潟県新発田市 人形浄瑠璃「猿八座」
佐渡の「文弥人形」の魅力を国内外に伝え、その継承発展に尽力

長野県大鹿村 大鹿歌舞伎
地芝居を村の宝として継承し、地域づくりを行う

岐阜県瑞浪市 美濃歌舞伎博物館 相生座
歌舞伎の技術や衣装などを保存継承し、美濃の地歌舞伎振興に貢献

広島県安芸高田市 ひろしま安芸高田 神楽の里づくり
「新舞」発祥の地として地域をあげて神楽振興を行い、その魅力を発信

愛知県瀬戸市 せとひとめぐり【特別賞】
コロナ禍でも創意工夫を凝らし、人との出会いを楽しめる街巡りを開催


本年度の選評ならびに特別賞選評は以下の通りです。

◆選評  飯尾 潤(政策研究大学院大学教授)評
 日本中が新型コロナウイルス感染症によって厳しい状況に追い込まれ、とりわけ人が密集することが避けられない地域文化活動は歴史的に例を見ない打撃を受けた。こういう時期だからこそ、という思いで、今年も5団体の活動を顕彰する運びとなった。

 神楽が盛んなところは全国各地にあるが、神楽大会の放映でテレビの視聴率が上がるというほど広島県の神楽は勢いがある。その中心地が「新舞」発祥の地・安芸高田市の「神楽ドーム」である。広島・島根両県の大会で優勝した団体が、旧舞・新舞に分かれて競う「神楽グランプリ」が開かれ、高校生による「神楽甲子園」があり、金・土・日曜には常に地元の神楽団の神楽公演がある。地元小学生の将来の夢が神楽団で活躍することだったり、神楽がやりたくて若者が山村に移住してきたりといった熱気を創り出したのが「ひろしま安芸高田 神楽の里づくり」である。

 ただ人口減少に悩む各地では伝統芸能の継承に苦労しているところが多い。長野県南部の山深い村の「大鹿歌舞伎」は、かつて高度成長期に壁にぶち当たり、集落ごとに続けてきた歌舞伎を、村で統一して運営することで今日の隆盛を築いた。長年の芸風やしきたりの違いを乗り越え、小・中学校で歌舞伎に出会い、村から出ても保存会の会員として「村の宝」を支える姿は、人口減少地域の活動のモデルになるだろう。

 もっとも、地元に腰を据えるだけが解決策とは限らない。人形浄瑠璃の古い形を伝える佐渡島の文弥人形劇を継承する、人形浄瑠璃「猿八座」は、島外の担い手を増やし、テレビでも紹介され、海外公演で魅力を発信しており、活動場所を島外に移した現在でも、古浄瑠璃演目の復活上演など、伝統芸能の継承・発展に挑み続けている。

 地歌舞伎が盛んな岐阜県には現役の芝居小屋がいくつもある。そのなかで「美濃歌舞伎博物館 相生座」は新興勢力だが、大きな特色は、調査研究によって美濃歌舞伎の魅力を外に伝えるとともに、他団体と交流し、たとえば衣装の貸し出しによって活動を支えているところにある。他の団体に手を貸すことで地域全体に元気が出てくる。

 10年が経とうとしている東日本大震災に際しては、被災地を元気づけようとアーティストが被災地に多数集まった。励まそうとやってきた外部のダンサーが三陸沿岸に残る芸能の素晴らしさに気づき、逆に「習いに行くぜ!東北へ!!」というキャッチフレーズができ、「三陸国際芸術祭」が生み出された。臨時のイベントを超え、内外の交流から新たな芸術が生まれ、毎年、その姿を変えるところに大きな可能性がある。

 いずれの活動も、コロナ禍で今は通常の活動は展開できないでいる。試練を超えて、さらに素晴らしい活動ができるようになる日を楽しみに、本年度の選評としたい。

飯尾 潤(政策研究大学院大学教授)評


特別賞選評  佐々木 幹郎(詩人)評
 サントリー地域文化賞はこれまで、過去数年の優れた活動の実績を持ち、現に行われており、今後も継続する可能性がある地域の文化活動を対象としてきた。しかし、本年度はコロナ禍のなかで、文化活動は閉塞状態に陥った。全国的に外出や他地域への移動の自粛、ソーシャルディスタンスの励行が推奨されるという、異常事態が続いた。

 そのなかで日本の地域文化はどのように生き延び、新たな活動を模索したか。人との出会いを中心とする地域の文化活動が、その出会いを制限されたなかで、アイディアあふれる活動をどのように生み出したか。2020年というコロナ禍の記憶として、本年度に始まったばかりであっても、この一年を象徴するような地域文化の力強さを示す優れた活動を顕彰するために、特別賞を設けることにした。

 例年のイベント開催が不可能になったとき、オンラインでのイベント企画は、全国の団体で無数にあった。しかし、陶芸の町・愛知県瀬戸市で生まれた「せとひとめぐり」の活動は、それらとは一味違っている。

 「せとひとめぐり」は、毎年9月に開催される「せともの祭」が中止になったことから生まれた。「瀬戸」と「人」という言葉を組み合わせ、街を人が「巡る」というネーミングからわかるように、オンラインではなく、あえて街と人との新たな出会いを企画した。例年の「せともの祭」では二日間にわたって窯元が屋台を並べて陶器を販売する。県内外から約30~40万人が来場する大きな祭である。

 それに対して、「せとひとめぐり」は、市の中心部の商店街と郊外にある窯元地区を、二日間にわたって来場者が地図を片手に、少人数単位で巡るという企画である。最初から大きなイベントにするのではなく、30店以下の参加に限定し、街の日常生活から飛び出しすぎないようなイベントをめざした。「せともの祭」は窯元だけの祭だが、このイベントには商店街も参加した。それぞれがいつもよりちょっとだけ張り切って、店で陶器の小物をプレゼントしたり、貴重な古い陶器を紹介したりする。来場者はそのサービスを受けるために「はりきりチケット」と名付けられたチケットを購入して店主に渡し、街を巡るシステムだ。このネーミングも巧みである。

 商品に出会うと同時に、人と出会う、少人数でのコミュニケーションこそを大事にする。コロナ禍を逆利用して、密にならないよう、感染対策を綿密に練った上での企画であった。窯元や各商店の日常の空気感を、来場者に伝えることを目指したのである。それが文化活動と言えるかどうかは、今後の発展次第、拡がり方次第だが、先見的な新しい試みの一つであることは確かだ。

 「せともの祭」と同じくらいの売上を計上した窯元もいたという。このイベントを毎月やることでリピーターを増やすべきでは、という参加店からの意見も出ており、来年以降の継続が求められている。

 地域文化はどうあるべきか、を典型的に示したコロナ禍のなかでの新鮮な活動として、今後の発展の可能性に期待したい。

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投稿者(栗)

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